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第八話  竜女の恋

 旧暦六月七日は、大足村の豊石神社のお祭りです。
広い境内では、赤々とかがり火がたかれ、時々丘(おか)の上で、夜空にパッと花火が打ち上げられていました。
若者たちは、鉢巻(はちま)きも勇ましく、そろいのハッピ姿で、笛を吹き、太鼓をたたき、村人たちはそれに合わせて、手拍子おもしろく、踊りの輪を広げておりました。汗ばんだ体に、海の夜風は心地よく、夜のふけるのも知らず、踊りはいつまでも続けられていきます…。
ところが、いつの間に現れたのか、見慣れない娘が一人、見物の人々の固まりからすこし離れて、じっと踊りを見つめています。
鼻すじの通った白い顔は気品にあふれ、輝くような美しさに、娘の姿は、背後のやみから浮き出しているように見えました。
「どちらの娘ごであろうか、美しいのう。」
「ついぞ見かけぬ娘じゃが、はて、どこのお屋敷の者だろうか…。」
目ざとく見つけた若者が、二人、三人と娘の話を始め、ささやきはたちまち輪の中に広がって、とうとう踊り手まで動きを止めて、みんな娘の方へ向いてしまいました。それほど、娘の姿は美しかったのです。
上気した顔で、踊り見物を楽しんでいたその娘は、突然踊りが止まってしまったのに、けげんな面持ちでしたが、みんなの視線が自分一人に集中していることがわかると、夢からさめたように、するりと身をひるがえし、暗闇の中に姿を消してしまいました。

…甘い潮風が香(かぐ)わしく肌(はだ)に触れて、そよそよと吹き過ぎていきます。ちょっと中断していた祭囃子(まつりばやし)が、遠く近く聞こえていました。日中の暑さがほんのりと残っている砂浜では、白の家老、高木但馬(タジマ)のひとり息子「作之進」が、祭りのざわめきを背後に、じっと海を見つめて立っていました。
折からの祭礼も、作之進にはつまらないものに思えて、好奇の目で、媚目(びもく)秀麗なかれの気を引こうと近寄ってくる村の小娘たちがわずらわしく、つい、浜辺まで来てしまったのです…。
作之進が暗い海を見つめて立っていたとき、さくさくと砂をふむ小さな足音が近づいてきました。だれか、自分と同じように涼風をこがれてやってきたのだろうと、気にしないでいると、水ぎわでもその歩みは止まらず、ほっそりとした影が、かれの横をかすめて、急に海中へ身を躍(おど)らせようとしたのです。
作之進は驚きました。とっさに、身投げだと感じました。思わず駆け寄って、うしろからぐい(・・)と強く抱きかかえました。
しかし、振り返った人の顔をのぞき込んで、作之進は思わず、あっと息をのみました。折からの淡い月の光に、そこには、この世の人とは思われぬ若い美女の顔があったのです。
冷たい、海の水を思わせる娘の体は、小きざみに震えながらも、なぜ止めるのかというようなけげんな目で作之進を眺めていましたが、ふしぎなことに、作之進の、鼻すじの通った男らしい顔立ちと、澄んだ瞳を見つめているうちに、青白い頬に、ぽっと赤味がさし、氷のような手に、次第にほのかな温かみが通っていくようでした。
自分の所業も忘れて、今はただ、うっとりとかれの顔を仰いで、黙って立っている乙女に、作之進は言うのでした。
「私は、城の家老高木但馬のあとつぎ、作之進という者である。深い事情もあろうかと思うが、案ずることはない。わが館(やかた)にとどまるがよい…。」
作之進は、この身投げをしようとした美女を、わが屋敷に連れていくことにしました。娘は、それを拒みもせず、黙ってかれの後に従いました。

娘は「小夜(サヨ)衣(ギヌ)」と名づけられ、奥方付きの小間使いとして召し使われることになりました。
どこの者とも素生がわからないものの、そのたぐいまれな美形と、特に若殿のお声がかりということで、小夜衣はだれからも丁重に扱われました。
―――そして、若殿が奥方の許(もと)に出かけられる日が多くなり、次第に、作之進と小夜衣の若い心は、互いに相手を意識し、恋いこがれるようになっていくのを、どうすることもできなくなっていました―――。
作之進のまぶたから、小夜衣の姿が離れられなくなりました。謹厳な家庭で育てられたかれには、しかし、どのようにして自分の気持ちを処理したらよいか、よく分かりません。食事も進まず、思い悩む日が幾日も続くようになります…。
目ざとく息子の様子に気づいたのは奥方でした。そして、わが子の口から、その恋情の激しさを知りました。
ある日、小夜衣は奥方から作之進の思いつめた気持ちを知らされ、かれの心を受け入れてくれるよう、何度も懇願されました。
ところが、小夜衣は、
「お気持ちは本当にありがたく、うれしう存じます。わたしも、若様をお慕いいたしております。でも…、しばらくお待ちくださいませ。」というばかりです。
そして、その夜、またの日の返事を待つ作之進を残して、そっと館を抜け出し、思い出の浜辺へ出かけていきました。

海は暗く沈んでいました。
「さあ、早く帰っておいで!」
海の中から、小夜衣を呼ぶ声が響きました。なつかしい父母の声です。
「ああ!お父さん、お母さん…。」
思わず、小夜衣の体は、海に引き込まれそうになります。…しかし、小夜衣の足は、水ぎわにぴたりと止まって、動かないのです。乙女に温かい血を通わせた恋しい人の手が忘れられないのです。潮(しお)のような冷たい体に、ほのぼのとしたものをもたらした若者の熱い心が、どうしても断ち切れないのです。
「ああ、お父さん、お母さん…。」
「さあ!早く帰っておいで…。」海の中の声は、必死に呼び続けています。
しかし、小夜衣は、目をつぶってきびすを返し始めました―――。
と、その時です。おだやかに晴れ渡った夜空に、突然黒雲が湧き上がったかと思うと、目もくらむばかりの稲妻(いなづま)と共に、激しい雷鳴がとどろき渡ったのです。

 村は思いがけない天変に大騒ぎとなりました。館では作之進が不吉な胸騒ぎを覚えて、小夜衣の姿を求めておりましたが、娘の姿はどこにもありません。探し疲れて、かれの足は自然に、思い出の浜辺への道をたどります。そしてそこで、浜辺に横たわる恋しい小夜衣の冷たいむくろを見つけたのでした。
嵐はうそのように治まって、空の名月は穏やかに照り渡っていました。そして小夜衣の青白い顔には、なぜか、かすかな満足の微笑のかげが見られました。
海は暗く潮騒(しおさい)の音を響かせていました。

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