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第十六話  庚申(こうしん)待ち

 黒々と盛り上がった森の枝先にも、畑の野菜も、そして豊かに頭(こうべ)の垂れかかった稲穂にも、夜露の玉が、月光にきらきらと光っていました。澄んだかぐわしい空気も、次第に冷気を帯びてきたようです。
ここ、市原の里では、夜更けでもひときわ明るい一軒の家から、カーン、カーンとかねの音が聞こえてきました。
「オン、コーシンコーシンソンデ、マイタリソワカ…」
一斉の唱和が終わると、ポクポクと木魚の音が流れてきます。
今日は庚申の夜です。
家の中には、正面に庚申さまの軸が掲げられ、ローソクの炎と線香の煙がゆらぎ、お供え物が飾られています。夜八時から、一ヶ月おきにやってくる庚申の日には、市原地区の禅宗の家の主婦が輪番で庚申講のお勤めをしているのです。
現在は主として女の人が多く、お勤めが済むと、お菓子をいただき、しばらく世間話が続いたあとで、お開きになります。人々は、このお参りで心から家内安全・息災延命をお祈りし、先祖の追善につとめますが、お勤めのあとでの世間話の中から、老人たちの生活の知恵や、各自の工夫を学び取ることができるのが、何よりの喜びとなって、江戸時代の昔から、今に至るまで一回も欠けることなく、続けられています。

 今はこうして、女の人の講となっていますが、昔は男の人たちばかりの集会でした。
「金兵衛さ。お出かけかい。精の出ることよのう。どうだい、ちょっと寄って、番茶でもすすりながら、話でもしていかんかい。」
「せっかくだがのう、太吉っさ。今日はよんどころない用だ。おまえと話しとると、どうも長くなっていけねぇ。話は今度の庚申さんよ夜にでもしてくれや。」

 こんな話が出るくらい、庚申参りの夜は、男の人たちは、夜が明けるまで、講元(もと)の家で語り明かしたものでした。市原村には、弘法水という、きれいな湧き水がありましたので、江戸桜という銘酒が造られていましたが、その地酒を酌み交(くか)わしながら、一晩中目を覚ましていて、ほのかに白む空を、しょぼしょぼとした目で仰ぎながら家路を急いでいきました。
「どうして、そんなに遅くまで起きているのかって…。さあ、詳しいことはよう知らんが、なんでも、石川五右衛門という大泥棒は、庚申の年の庚申の月の庚申の日の生まれだったそうで、庚申の夜におかあちゃんと仲ようすると、泥棒になる子が生まれちまうそうな。それじゃ困るから、男たちは一晩中夜明かしをするんだって。
これってほんとかねぇ。」

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